2025(令和7)年度税制改正に関する主要提言
― 税制上の重要課題について、「現実的な解」を示す ―
立憲民主党 税制調査会
現在、日本の経済・社会は、未曽有のコロナ禍を乗り越え、約30年ぶりとなる物価高を経験するなど、大きな変動期にあり、この過程で様々な課題や矛盾が顕在化してきている。こうした状況に鑑み、国民の生活に直結する税制についても、適切に改革・アップデートするのが、政治の責務である。
与党の過半数割れにより、税制の決定過程は大きく変容し、従来のように、事実上、与党内の密室の議論のみで税制が決められる時代は終焉を迎えた。立憲民主党は、政権を担い得る野党第一党として、国の根幹を成す税制の重要課題について、責任ある「現実的な解」を示し、「熟議」と「公開」の国会の下で、その実現を目指す。
〔 「防衛増税」の撤回 〕
◎ 「防衛増税」については、そもそも前提となる総額43兆円規模の防衛費増額自体が「数字ありき」である上に、復興特別所得税の流用は言語道断であることから、確実に撤回すること。
◎ なお、「令和6年度税制改正の大綱」では、防衛財源に充当するため、 加熱式たばこと紙巻たばこの税負担格差の解消と、国税のたばこ税率引き上げの方針が掲げられたが、こちらも併せて撤回すること。
〔 いわゆる「103万円の壁」問題への対応 〕
◎ いわゆる「103万円の壁」問題については、基礎控除を合理的な範囲で引き上げるとともに、配偶者控除や扶養控除等の対象となるための所得要件も同様に引き上げること。また、併せて、「就労促進支援給付」等の実施により、収入の逆転が生じるという点でより深刻な社会保険の 「130万円の壁」の解消も一体的に行うこと。
◎ 基礎控除を引き上げた場合、所得税・個人住民税の減収と地方交付税の減額が生じるが、地方に係る減収は国の責任で全額補填するとともに、国税の減収については、金融所得課税の累進化など、再分配機能を強化する所得税改革を実行することにより、財源確保を図ること。
◎ 学生アルバイト等の就労抑制問題については、配偶者特別控除に倣い、「扶養特別控除」を創設し、控除額を段階的に逓減・消失させる仕組みとすることで解消を図ること。
◎ なお、現行の基礎控除は、所得控除であるために、高所得者ほど減税額が大きくなるという問題を抱えているが、この点に関しては、税制の再分配機能を強化する観点から、基礎控除をはじめとする人的控除の税額控除化、給付付き税額控除化を進めることにより、是正を図ること。
〔 扶養控除の存続 ―児童手当の拡充に関して 〕
◎ 政府・与党では、本年10月から児童手当の支給対象を高校生年代にまで拡充したことを踏まえ、16歳~18歳までの扶養控除の縮小を検討している。「控除から手当へ」という民主党政権以来の考え方自体には賛同できるが、現行の児童手当の額は子育て支援の観点から十分とは言えないため、手当が十分な額とならない限り、現行の扶養控除を存続させること。
〔 公平・中立な退職所得課税改革 〕
◎ 退職所得控除については、いわゆる「サラリーマン増税」を回避しながら、働き方の多様化、雇用の流動化に対応するため、現状、勤続年数が20年を超えると40万円から70万円に引き上がる控除額について、勤続 1年あたり一律60万円とすること。
〔 暮らしのリスクを低減する税制の拡充 〕
◎ 生命保険料控除については、与党の「令和6年度税制改正大綱」に記載された「子育て世帯に対する生命保険料控除の拡充」を確実に実施すること。併せて、介護保険・個人年金の各保険料控除の最高限度額を引き上げるとともに、保険料控除の合計適用限度額を引き上げること。
◎ 災害に係る損失については、令和5年度税制改正で、特定非常災害により住宅・家財等に損失が生じた場合の雑損控除の繰越控除期間が3年間から5年間へと延長されたが、災害による担税力の喪失を最大限に勘案する観点から、独立した「災害損失控除」を創設し、繰越控除期間を更に延長するとともに、人的控除を適用した後に適用するものとすること。
〔 働く現役世代を支える観点からの税制見直し 〕
◎ 食事手当の非課税限度額については、1984年に、当時の企業の実態調査の結果を踏まえ、3500円に引き上げられて以降、約40年にわたりその水準が維持されてきているが、この間の食費の上昇や昼食代の相場等も踏まえて、7000円程度まで引き上げること。
◎ 奨学金の返還に追われる若年層を支えるため、奨学金制度の拡充を前提としつつ、貸与型奨学金の返還額の一部を所得控除の対象とすること。
〔 中小・小規模事業者等の活動基盤の整備 〕
◎ 中小企業者等の法人税率の軽減措置(15%)は、2024年度末までの時限措置とされているが、中小企業は我が国の雇用の約7割を支えており、物価を上回る賃上げの実現に向けては、中小企業の賃上げがカギとなることなども踏まえ、この際、恒久化すること。
◎ 事業承継税制については、円滑な事業承継が地域の中小企業における死活的な課題となっていることに鑑み、平成30年度税制改正により10年間限定で実施されている特例措置について、恒久化すること。
◎ インボイス制度(適格請求書等保存方式)については、免税事業者が取引過程から排除されたり、廃業を迫られたりする等の問題がある上に、従前の「区分記載請求書等保存方式」でも適正課税は可能であることから、速やかに廃止すること。また、併せて、昨年10月からの制度開始に伴い、既に課税事業者(インボイス発行事業者)に転換した免税事業者等に対しては、必要な支援措置を実施すること。
〔 自動車関係諸税の簡素化・負担軽減、脱炭素化 〕
◎ 走行距離課税は、車による移動距離が長い地方ほど大きな負担を負うものであり、電動車の普及を阻害する恐れもあることから、導入しないこと。その上で、自動車関係諸税については、自動車の保有者・利用者の負担軽減と地方財源の確保の両立を図りながら、現行の複雑・過重な税制の見直しを図ること。
◎ 我が国の基幹産業である自動車産業の脱炭素化を推進し、国際競争力の維持・強化を図るべく、電動自動車の普及や脱炭素化に資する自動車開発等を支援する税制上の措置を講じること。
◎ 揮発油税等のトリガー条項については、財政に配慮し、必要な期間にわたり一時的に凍結を解除するとともに、激変緩和措置を講じるなどした上で、原油価格高騰時には確実に発動できるようにすること。併せて、「当分の間税率」の廃止を図ること。また、減収する地方税(地方揮発油税、軽油引取税)については国が全額補填すること。
〔 再分配機能を強化する抜本的な税制改革 〕
◎ 所得税については、応能負担を求める観点から、勤労意欲の減退等の懸念に十分配慮しつつ、累進性の強化を図ること。
◎ 金融所得課税については、NISA(少額投資非課税制度)の拡充が実現した一方で、貯蓄ゼロ世帯の増加などを踏まえると、所得格差の拡大・固定化を是正する取り組みは依然として不十分であることから、我が党が主張する「公益資本主義」の観点に立ち、富裕層優遇のいわゆる「1億円の壁」の解消に向けて、当面は分離課税のまま累進税率を導入し、中長期的には総合課税化すること。なお、中間層増税を避けるため、一律の税率引き上げは行わないこと。また、暗号資産に対する課税については、その在り方について更なる検討を進めること。
◎ 法人税については、効果のない租税特別措置の廃止、受取配当等益金不算入制度の見直しなどにより、法人の収益に応じて応分の負担を求める税制に改革すること。また、巨大IT企業などの多国籍企業による租税回避行為が横行していることに鑑み、「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対する合意」に基づく多国間条約の早期策定に尽力すること。
◎ 消費税の逆進性対策については、軽減税率制度に代えて、中低所得者が負担する消費税の一部を所得税から税額控除し、控除しきれない分は給付する「給付付き税額控除」(消費税還付制度)の導入により行うこと。
◎ 資産格差が拡大・固定化している現状に鑑み、税率構造や非課税措置の見直しなどにより、相続税・贈与税の累進性を高めること。
〔 地方税財源の安定的な確保 〕
◎ 現在、いわゆる「103万円の壁」の引き上げによる地方の減収が懸念されているが、地方に影響を及ぼす税制改正の検討に当たっては、「国と地方の協議の場」等を通じ、地方の意見を十分反映すること。
◎ 現在、国と地方の税収割合が6対4である一方、歳出割合は4対6と乖離があることから、国と地方の役割分担に応じた税の配分となるよう、偏在性や安定性に配慮しつつ、当面は5対5とすることを目標として、地方税の配分割合の更なる引き上げを図ること。
◎ 固定資産税は地方の基幹税収であることから、安定的な確保に努めること。一方で、地域経済の中核を担う事業者のなかには、事業上の必要性から広大な土地や建物を所有しているため、地価の上昇に伴い、固定資産税が重い負担となり、事業継続に悪影響が生じている事業者もあることから、国の責任で必要な支援策を講じること。
〔 納税環境の整備 〕
◎ 納税者の権利利益を保護するとともに、税務行政の適正かつ円滑な運営を確保するため、「納税者権利憲章」を制定すること。
◎ 扶養親族の変更、保険料控除証明書の到達遅延などにより、翌年に年末調整のやり直しが必要になる場合があることに鑑み、年末調整の実施時期を1カ月後ろ倒しするとともに、その影響が及ぶ所得税の確定申告についても、申告期間を1カ月後ろ倒しすること。併せて、消費税の確定申告期間も1カ月後ろ倒しすること。