質疑に入る前に枝野代表は、「4千5百人を超える方が命を失い、今も陽性と判定されながら、自宅療養を余儀なくされている方、入院できない方、重症者用病棟に転院できない方がいる。適切な治療を受けないまま亡くなった方も、少なくない」と深刻な現状に触れ、医療体制で国民の皆さんに不安を抱かせていることに国会議員の1人として陳謝しました。
現下の医療体制について、「ひっ迫というより、もはや崩壊である。現場からは、『このままでは壊滅する』との声まで聞こえている」と言及。そうした苛酷な環境で医療従事者の皆さんが昼夜を問わず治療に当たり、それ以外の診療科や高齢者施設などでもエッセンシャルワーカーの皆さんが懸命に尽力されていることに謝意を表明しました。
感染拡大の責任
今回の感染拡大について枝野代表は、「政治によって引き起こされた『人災』と言っても過言ではない」と厳しく指摘しました。冬場に感染が広がる危険性は、繰り返し指摘されてきたにもかかわらず、政府が検査体制の拡充や、重症病床の確保、医療機関とそこで働く方々への支援などを十分に行わないまま、GoToキャンペーンを強行し、感染爆発を招き、再度の緊急事態宣言発出へと至ったと断じました。ただし、枝野代表は自らが、その政府の動きを止められなかったことに対して謝罪を示しました。
「withコロナ」から「zeroコロナ」へ
「同じ過ちを繰り返さない」と表明した枝野代表は、「その場しのぎの対応ではなく、先を見通した明確な戦略方針と優先順位を付けた具体的なプランが必要」と強調し、国内での感染封じ込めに概ね成功し、経済も順調に回復しているニュージーランドと台湾の事例を取り上げました。
両国が「感染防止と経済の両立」を目指すのではなく、まず徹底的な感染の封じ込めに取り組み、「市中にウイルスが蔓延する中で経済を回していく『withコロナ』ではなく、市中から感染者をなくしてしまう、いわば『zeroコロナ』を目指し、成果をあげている」と説明。日本は、両国と同様に島国であり、水際対策を取りやすい環境にあると指摘し、これらの成功例を参考に「withコロナ」から、「zeroコロナ」を目指す方向へ転換することを提案しました。
感染症対策の基本戦略
「zeroコロナ」への基本戦略について枝野代表は、「まずは徹底した感染の封じ込めに取り組み、その間は、十分な補償と給付で支える。できるだけ早く感染を封じ込めた後に、いつでも封じ込めができる体制を維持しつつ、旅行でも会食でもイベントでも、制約なく安心して再開する。このことで、結果的に経済を最も早く立ち直らせることにつながる」との考えを示しました。
関連して政府が緊急事態宣言について、「ステージ3、新規感染者数500人にまで下がれば解除する」としていることについて、「これでは、また感染が拡大に向かい、経済にもより深刻な打撃を与えかねず、見直すべき」と菅総理に求めましたが、総理は見直しに言及しませんでした。
3つのプラン
立憲民主党の基本戦略に沿う3つのプランとして枝野代表は、(1)医療を守る(2)感染拡大を防ぐ(3)事業と暮らしの支援に関する次の具体的施策を可及的速やかに進めるよう政府に提案しました。
(病床確保のための措置)
1つ目のプランに関して、命を守る砦である医療の崩壊、壊滅を食い止め、充実させることに最優先で取り組むため、病床確保の措置として、感染症患者の受け入れ機関に対して、「受け入れのためのコストと、受け入れに伴う減収を、全額補填することを明確にし、事前に包括払いすることが、協力を求める前提だ」と訴えました。
(医療従事者に対する支援)
病床を確保しても医療従事者がいなければ機能しないことから、立憲民主党が国会召集日の18日に「第1波」から継続している方を含め、「第2波」「第3波」に対応している医療従事者に、もう一度20万円の慰労金を支給する法案を提出したことを紹介。「感謝を口にするだけでなく、個々の皆さんに確実にお金を届け、慰労の気持ちを具体化することで、少しでも離職を防ぎ、採用が進むよう努力すべき」と説き、法案への賛同を求めました。
(検査の拡大)
2つ目のプランに関連して、感染の広がりを防ぎ、封じ込めることを徹底するため、立憲民主党が医療・介護・福祉・保育に従事する方や教員など、エッセンシャルワーカーで希望する方を対象に月2回の定期検査を公費で行うよう提案してきたにもかかわらず、政府が消極的な姿勢を崩さないことに疑問を呈しました。政府に対して「民間などの持つ能力の情報を一括して募り、全体像を把握して、計画的に協力を求め、検査の拡大を進めるべきではないか」と要求しました。
(感染者の隔離)
感染者の隔離について枝野代表は、「感染拡大防止に不可欠」と強調し、「国民が協力できるよう、病床や療養用ホテルの確保、そして感染者の生活支援体制の充実など、政府としての責任を果たすべきではないか」と提案しました。ただし、協力しない方々に対して「懲役刑まで設けようというのは行き過ぎで、容認できない」との考えを示しました。
(持続化給付金・家賃支援給付金)
3つ目のプランに関連して枝野代表は、「幅広い業種で多くの方が、倒産や廃業の瀬戸際に追い込まれている。感染症危機による倒産や廃業が生じないよう最善を尽くすのが政治の責任」と力を込めました。具体策として、「持続化給付金と家賃支援給付金を継続し、必要に応じて改善や拡大をした上で、再度支給することで、倒産や廃業を食い止めるべき」と求めました。
(労働者の所得補償)
雇用の危機的な状況を踏まえ、「雇用調整助成金の特例措置や、休業手当を受け取ることができなかった労働者に支給される休業支援金・給付金の期限は、少なくとも6月末まで延長すべき」と提案しました。中小企業に限定されている休業支援金・給付金の対象に関しては「大企業の労働者も休業支援金・給付金の支給対象とすべき」と要求しました。求職者への対策については、「失業手当の給付日数を延長するとともに、支給割合を引き上げるべき」「職業訓練受講給付金と同額程度の臨時職業訓練受講給付金を支給する」ことを提案しました。
(子どもの貧困対策)
立憲民主党が提案した「ひとり親世帯給付金年内支給法案」を受け、政府が昨年末に「臨時特別給付金」を再度給付したことを評価しました。ただし、4月に向けて進学、進級が控え、多くの費用が必要となることから、進路の変更や断念、中退などを余儀なくされる子どもたちが相次ぐ恐れがあると懸念を示し、「ひとり親家庭や、生活に困窮する子育て家庭を対象に『臨時特別給付金』を2回にわたって支給する」ことを提案しました。以上の枝野代表からの3つのプランに対して菅総理は、政府の現状の施策説明に終始しました。
予算の見直し
約19兆円に及ぶ第3次補正予算のうち、新型感染症の拡大防止対策が「わずか4兆円ほど。半分以上は、感染症の収束後を見据えたもの」と指摘。「補正予算案は、感染症対策に集中したものへと編成し直し、少なくともGoToキャンペーンの追加予算は削除して、感染症対策に振り替えるべき」、「来年度予算も大幅な組み替えが必要だ」との認識を示しました。
その他の重要課題
感染症対策以外にも枝野代表は、東日本大震災と原発事故から10年を迎えることから、復興に向けた総理の姿勢をただしました。脱炭素社会に向けては、脱原子力発電依存について追及するとともに、国の責任による送電網強化や断熱住宅の促進を提案しました。災害対策では、内閣府の防災部局を格上げし、独立の省庁を設けることを提案しました。「選択的夫婦別姓」の導入については、野党案の審議を進め、成立させ、結婚における選択肢を増やすよう求めました。官僚のモチベーションを高めるために内閣人事局制度を見直しも求めました。
外交問題では、米国での政権移行に伴う大混乱についての総理の認識をただしました。昨年11月、王毅中国外相が尖閣諸島の領有権を主張したことに「中国公船による領海侵入などと合わせて、失礼千万」と断じました。拉致問題では、先の臨時国会で野党が求めた特別委員会での実質的な質疑を行わないなど、「熱意や必死さが感じられない」と苦言を呈しました。
最後に枝野代表は、過去30年に及ぶ政治を振り返り、「自助と競争ばかりを強調し、目先の採算性で現場を切り捨て、命と暮らしを守るための基盤を掘り崩してきた。自助と自己責任が強調され過ぎたあまり、困窮の極みにあっても、国民の権利であるはずの生活保護を申請しないなど、救いを求める声をあげることにためらう方が少なくない」と国民が置かれた窮状を訴えました。
「多くの国民は、すでに十分すぎるほど自助努力をしている」と述べた枝野代表は、この局面に至っても政府が「自助を強調し、政府による公助を怠りながら、罰則をちらつかせることで対策を進めるような姿勢では、国民の信頼と協力が得られるはずがない」と述べ、自公政権の政治姿勢を抜本的に改めるよう求めました。
感染症による国家の危機において、立憲民主党が目指す政治について枝野代表は、「自己責任や自助努力ではどうにもならない、そんな状況が暮らしの現場で広がっていることを正面から受け止める。その上で、政治が先頭に立ち、困った時に支え合い、互いの命を守り、ともに生きる社会へ、そして、それを支える機能する政府への転換を進める」と表明。「そのために、苦しい状況にある一人ひとりと向き合う政治、あなたのための政治を実現する。自己責任から支え合いへ。あなたとともに力を合わせ、感染症と戦い『命と暮らしを守る』政治へ。あらゆる手段を講じて、この難局を乗り切り、「あなたのための政治」を実現するために、全力を尽くす」と決意を示し、質問を終えました。
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