東京都日野市にある一般社団法人「共に働くワーカーズ えんこらしょ」代表理事で元日野市議の古池初美さん、監事の八木祥子さんから、地域の中で共に働く場を作り出す「えんこらしょ」の活動の内容と市民活動を継続する難しさや楽しさについて話を聴きました。
大河原 今日は日野市にある「えんこらしょ」にやってまいりました。「生活の課題は現場にある」ということで、皆さんが立ち上げたこの場でお話を聴きます。
活動内容は、(1)石けんでの清掃事業(2)高齢者向けのパソコン事業(現在休止中)(3)日野産の作物をジャムやソースに加工販売(4)宣伝物の配布事業(5)居場所事業――などです。
私たちの事業は2016年に立ち上げて8年経ちますが、中高年からリタイアした世代までが参加しています。
空き家事業の活用
大河原 この場所は空き家を使っているのですよね。まずこの場所の紹介をお願いします。
古池 「えんこらしょ」は、隣の市に住む方に空き家を使ってみないかと声をかけられ、一角を借りたところからスタートしました。
その後は、日野市の空き家事業を利用しています。とても家賃が安いですし、地域の課題を解決する団体だったら仲介しますということで、今に至ります。ただ、約7年の間に4回も引っ越しました。日野市の事業でマッチングしてもらった場所は、1年ごとにオーナーさんと話ができるメリットがあるということで単年度契約でしたが、5年ぐらいは借りれるという話でした。しかし2年で返さなきゃいけなくなりました。活動する側としては、2年では投資が返ってこないということもあり、長期で借りられるように制度を変えてほしいとお願いをしました。その結果、今の場所は5年契約が実現しました。これは日野市では初めてのことです。
東京都の補助金も受けられることになり、台所などの改修費のうち3分の2は東京都と日野市が出してくれることになりました。改修するのに約200万円かかりましたが、そのうちの3分の1、70万円程度の負担で改修できました。日野市の空き家事業がとても充実していることを示していると思っています。
八木 ここには、空き家事業として見学にいらっしゃる方が多いです。この空き家を借り続ける家賃の原資となるベースの事業が大事だと思います。おかげさまで、私たちはもともと清掃事業を基幹事業として持っているので、居場所事業もできます。居場所事業だけでは、なかなか維持できません。そういうところがもう少し広く皆さんに伝わるといいなと思います。核になる事業を1本持つと、それに付随して広がっていく、落ち着いて事業を増やしていける、楽しみが増えてくるのを実感しています。
日野産物の加工
古池 保健所の許可が出るようにキッチンを改修しました。ジャムづくりをキッチンでやってよいと許可が下りました。喫茶みたいな形でやろうと話をしていましたが、人数がそろっていなかったので、ジャムづくりから始めました。
今はゆずの時期です。日野市では夏にはトマト、ブルーベリーがとれます。農家さんにお願いをしてB級品を安く譲ってもらい、ジャムとソースを作って売っています。両方ともとても好評で、すぐに売り切れになります。
大量には作れないので限定販売です。今回は大きい鬼ゆずを農家さんが譲ってくれたのでマーマレードにしました。普通のゆずより苦味が少ないです。日野産物を大事に加工して、それをまた皆さんに提供するので、儲かりませんが、待っていてくださる方がいるので、とてもありがたいです。
居場所事業
古池 高齢者の「ふれあいサロン」を担う「こんね」という団体に、この場所をお貸ししています。「こんね」さんがここで「ふれあいサロン」をやりたいと言っていたのですが、家賃を負担できないというので、私たちが借りて月に何回かスペースを貸しています。
大河原 高齢の方も自力でここに来られるのですか。
古池 皆さんそうです。週1回月曜日に開催していますが、毎回、10人以上楽しそうに参加しています。男性も、お一人でふらっと立ち寄る方もいらっしゃいます。「こんね」は九州の方言なので、九州の人に出会えるのかなと思って参加する方もいるそうです。ただお茶を飲むだけではなく、みんなで歌ったり、いろいろなことをやっています。
大河原 人と接すること、話すことは大事ですよね。
古池 コミュニケーションを取ること、人と話すことは介護予防になると思います。「ふれあいサロン」は日野市内に何カ所かあります。貸室代は1回500円を頂いています。
それから私たちの独自の事業として、「ひの筋体操」があります。とても簡単な体操ですが、高齢者の介護予防ということで月2回やっています。加えて、とても強い要望があったので毎週月曜日に麻雀教室もやっています。初心者限定ですが、若い方がほぼボランティアで教えに来ています。頭の体操にもなり、参加者は皆、元気になると言っています。手芸クラブもやっています。自分たちが作りたい物を作って、たまに作品の展示販売も行っています。他にも年に1回、落語の会を開いたり、たまたま杵と臼を頂いたので、お餅つきをやっています。また、ボランティアで市内の竹林の伐採している人たちから竹をもらい、昨年は一緒に流しそうめんや、竹の皮で包んだおにぎりを作りました。
古池 一つの企画を、なるべくさまざまな所とリンクする形でやってきています。いろいろなつながりがある中で居場所事業を進めています。ここに集まってくる方たちが、それぞれ持っている技能を、ここで活かせる。ここにいるから新しいこともやりたくなる。地域の方は、本当にこういう場所があって良かったと言ってくれます。いろいろな人に出会えることがとても楽しいです。今まで市民活動をしてきましたが、人との出会いがありつながる中で、ずっと前に出会った人と、またここでつながっていく。そういうつながりがとても面白いです。そういう楽しさはあります。
市民活動を持続させるには軸になる事業を持つこと
大河原 清掃事業について教えてください。どのようなことをやっているのですか。
古池 たまたま施設の清掃をやらないかと言われて、ぜひそれをやりたいということで始めました。一般の家庭や施設の清掃を引き受けています。家の清掃は、ほとんど高齢者や障害者の方です。介護保険ではカバーできない部分を生活サポートでやっています。
みんなでノウハウを得て、経験者が他のワーカーズに清掃のノウハウを伝えたりもしています。今では、一番の収入源になっています。清掃事業の収入が他の事業を支えています。環境にやさしい石けんを利用できるのもありがたいです。
今年度は日野市の「ちょこすけサービス」という事業の中で、市から助成金が出ているので、利用者負担は30分2人で行って1000円です。その助成金を使って、必要な物を買ったり、事務所の維持費用に充てることができます。各ご家庭の清掃をしたり、草取りをしたり、窓の清掃をしたり。やっと認知されるようになって、今年度は30件ほど注文が入りました。行政も直接的にはできないですし、個人がすべてを外部に委託したら高額になるので躊躇されると思います。行ったら必ず「ありがとう」と言われるから、仕事としてはすごくやりがいを感じられるし、喜ばれている生活支援だと思います。
大河原 「えんこらしょ」の課題と目標はなんですか。
古池 「えんこらしょ」は、清掃事業の収益があるので、この家を借りられていますが、市民活動の団体が、場所を借りるのは大変です。持ち出しが多くて恒常的、継続的にやっていくのは難しいです。単発的な事業ですと、なかなか収益がでなくて、長期に場所を借り続けるのは難しい。収支のバランスが難しいです。
今のところ、収支はマイナスではありませんが、大した事業数ではないので、もう少し人を増やして、事業も増やして安定した活動ができるようにしたいです。働きたいと思っても、フルタイムで長期間は働けない。しかし、週に1回か2回ぐらいだったら、社会と関われるかもという人たちを、もう少し受け入れていけるといいかなと考えています。
大河原 働くことで生きがいややりがいを得られると同時に、少しでも収入を得られたらいいなという思いもあると思います。それがあると、さらにその事業についても前向き、積極的になるし、体も動きだすのだと思います。特に障がい者の働く場として非常に期待されていると思います。
古池 「えんこらしょ」は、生活保護を受けている人が2人、聴覚障がい者が1人。みんな補いながらやっています。どういうことができるのか、その人がどんなことをしたいのかを相談しながら、一緒に働けるような環境を作っていければと思っています。
市民活動を後押しする役割 元自治体議員のロールモデルへ
古池 市民活動を事業として立ち上げる時の初期費用はどこかの助成金を受けることが多いです。本来なら国や自治体がやるべき事業を、市民団体が助成金をもらって担っている側面があります。でも、例えば居場所づくりや子ども食堂だけは収益が出ないですから、助成金が止まった時に立ち行かなくなります。助成金は人件費に出してはいけないところが多いです。私は自治体議員だった経験があるので、こういった情報はいろいろなところから聞きます。今回はこれを使おうとか、どこと連携すればよいのかとかが、頭に浮かびます。私たちは税金を納めているのだから、行政をもっと活用すべきです。
コーディネートできる人がいないと市民活動は回らないです。市民活動をたちあげるノウハウ、運営のノウハウ、持続していくためのノウハウを教えてくれる人が必要で、市区町村の行政に、そういうコーディネート役を置いて、今度こういう助成金の募集が出ているから使った方がいいとか、そういったアドバイスがあると市民活動がもっと活性化していくのではないかと思います。私も自分の経験や知見を活かして、「えんこらしょ」の活動だけでなく、そこを拠点にいろいろな市民が参加して活動が広がっていくように、つなげていきたいと願っています。
大河原 政治がもっと動くべきところを指摘してください。
古池 市民団体はお金がありません。最初は持ち出ししてでもやってるかもしれませんが、継続させる力がないから、そこを政治がもう少し支援すべきだと思います。
本来なら行政がやるべき仕事を、私たちがやっているので、例えば委託という形でお金を出してやってもらうなど、市民団体の活動が継続できるような支援を政治が提供してくれると、もっといろいろなやりたい人たちが出てきて、継続できるのではないかと思います。設備を持っているなら、融通をきかせて使わせるとか、行政ができることを、もっと広げてもらいたいです。
加工所がないという人もいました。作りたいけれど加工所がないのでJAや市が加工所を作り貸してくれれば、自分たちでも野菜の残ったものを漬物にしたり、活動の幅が広がると思います。
ぜひその方向で行政には頑張ってほしいです。
国政や都政においては、なかなか地域が見えない。私も議員の時に東京都の職員にヒアリングに行くと、本当に地域が見えていないのだなと感じました。この場所で、こういう公園を作ったらどうするのかみたいな話をした時に、それは何課と何課ですからと細分化されていて、全体を把握している部署がない。
でも市レベルになると地域を知っているので、もう少し包括的に行政に政策を提案できました。国や東京都は、地域を知ることがとても大事ですし、政策に反映、提案してもらえるとありがたいです。
大河原 古池さんは、市議を辞める時に、その経験を活かした活動を考えていたのが素晴らしいと思いました。
古池 議員を辞めた後の元議員のロールモデルがまだないです。議員を辞めた後に、議員の経験を活かしてどのような活動をするか。市議の経験、行政などとの人脈、行政の仕組みも知っているのが強みです。その強みを生かして、市民活動をしたいと希望する人達の活動を実現化するには、何が必要、どこに行ったほうがよいとか、お手伝いができます。助成金を申請するには膨大な書類を提出しなければならない。そういうところもお手伝いできると思います。
大河原 政治家を辞めた後、その経験をどう生かすか。古池さんの活動は、一つの貴重なロールモデルだと思います。市民がこんな地域活動をしたいと手をあげたら、議員活動の知見を活かして、市民活動を継続させていくためにアドバイスしていく。古池さんの今後に期待しています。「地域第一主義」で一緒に頑張っていきましょう。