立憲民主党は、育児、若者支援を党全体の取り組みとして強化するために、10月26日に「子ども・若者応援本部」を立ち上げ、本格始動しました。さまざまな視点で子ども・若者支援を考えるため、マンガ「父娘ぐらし」を今年4月に出版した漫画家の渡辺電機(株)さんに「子どもを育てること」と題してインタビューしました。
noteで大反響を呼んだ「父娘ぐらし 55歳独身マンガ家が8歳の娘の父親になる話」を2022年4月に書籍化。55歳で独身のギャグ漫画家である渡辺電機(株)さんが、2人の娘をもつ女性との結婚で突然父となり、思いもよらない8歳の娘との“ふたり暮らし”の経験をギャグ漫画家の目線で綴っています。
【渡辺電機(株)さんのプロフィール】 漫画家。明治大学在学中より石ノ森章太郎のアシスタントを経験。1989年より現在のペンネームにて、ゲーム誌や少年誌、青年誌などで幅広く活動。現在、中学生と小学生の娘と3歳の息子の育児に奮闘中の様子をnoteにマンガで発信。
いきなり小学生の娘の父になってみたら、地球がひっくり返るほど新鮮
――どのような経緯で娘さんとの2人生活が始まったのですか。
50代半ばまでブラブラと好きなマンガを描き散らして、実家も両親が健在で楽しく暮らしていました。たまたま2人の娘を育てるシングルマザーと知り合い、気が合い、子どもたちもとても可愛くて懐いてくれました。前のご主人からはDV被害を受けて離婚したこともあり、地元を離れてリセットしたいという希望を持っていました。1年くらい通い婚みたいな形で子どもたちと交流をして、いろいろな事情から長女のアユだけ先に、僕の住む東京に呼ぶことになり、半年ほど二人暮らしをすることになりました。
それまで1人で生きていたので、いきなり24時間、人間のお世話をすることになり、子どもですから気まぐれで、大変なことになりました。実家の親にも「見る見るやつれてきたけど大丈夫なの」と心配され、本当に見る見る老け込んできて、鏡の中におじいさんが・・・という感じになりました。
でも、子どもが全身で寄りかかってくることがあって、こんなに信頼されていたら裏切れないと思いました。
それに、子どもとのふれあいやご飯を作ってあげたり、学校との付き合い、先生や父兄との接触すべてが、僕には新鮮でした。大変インスピレーションがわく、地球がひっくり返るくらいの価値観の転換がありました。
世界で一番縁遠いのは子連れの母親だった
――娘さんと生活する前はどのような生活だったのでしょう。
フリーランスで親も近くにいて、そこまであくせく働く必要もないので、基本ブラブラして、月収10万もあればなんとかなる生活でした。
街では完全に不審者。昼間からスタミナドリンクを持ってブラブラする。アイデアを練る時に公園のベンチで親子連れが走っているのを眺めながら、別世界だなと見ていました。向こうも寄ってこないし。学校の前を通ってもフェンスがとても高い壁に見えていました。
が、いざ親になるとその中に放りこまれる。保護者の名札を首にかけた瞬間に、向こう側の人間になって、学校の人たちも何の疑いもなく「おはようございます」と声をかけてくる。斜に構える暇もない。
それまでは、区役所は行ったことがなかったし、児童館が何のためにあるのか、保育園と幼稚園の違いも知りませんでした。子どもがいると地域社会に溶け込まざるを得ない。それが一番変わりました。こちらのアイデンティティーとか、かっこをつけている余裕もなく、やらなければならないことが次々と押し寄せてくるという感じでした。気づいたら、全然違う世界にいました。
――マンガの中で、にぎやかな子どもをうるさいと舌打ちする男性を、以前の自分とダブらせて描いていますね。
あれはあれで、よく気持ちが分かります。親子連れとかを見るたびに世界に置いてけぼりにされている感じがしていました。それは本当に思い込みでひがみもあるとは思います。実際は、好きなことだけやって生活している後ろめたさのようなものがありました。そこから卒業したという意識もないのですが、たまたまこっち側に来てしまった。向こう側、こっち側という分け方もしちゃいけないのですが、今は子どもがいない世帯も多いですし、これからもそういった世帯が増えていくでしょうし、そういう人たちと分断されずにやっていけないかなというのは感じます。
驚くほど子どもにはお金も労力もかかる
――娘さんといきなり2人の生活はどうでしたか。
なるべく深く考えないようにしていましたが、どんどん物事が進んでいき、考える暇もありませんでした。
それまでは、家の中で24時間黙っているのが普通でした。コンビニやカフェで商品を受け取って「ありがとう」「ブレンド」と一言だけだったのが、一日中ずっとしゃべっていないといけない。2人きりなので、雰囲気が暗くならないように、叱る時もとにかく明るく、感情的にならないように。最後は「パパみたいになったらおしまいだよ」とうまくまとめました。
娘と暮らし始めた頃、本当にお金がかかるようになって衝撃でした。引き取った時点で、連載漫画が終了して収入がゼロ。定期預金を切り崩すしかなかったのですが、どっかんどっかんお金がかかって、びっくりしました。子どもには身体によい食べ物をとか、ちゃんとした洋服をと思うと、独身の時とかかる値段の桁が違いました。
同居してすぐに、子どもの食べ残しを食べることができるようになりました。それだけはできないと思っていたのですが、あっさりできました。一かじりしただけの肉は捨てられないです。
ギャグ漫画家の低い目線で
――子どもを一人の人間としてとらえているのが、このマンガのベースにあると感じました。
職業柄、目線が低いです。赤ちゃんを「独身男性」と表現したりと、見方を変えてみるのは、マンガの基本です。見方を変えてみたら、全然違う表現になる。特にギャグ漫画を描く上での基本なので、そういう見方は自然とできているのかもしれません。マンガの方法論で描いた育児マンガはあまりないかもしれません。
――マンガの中でアユちゃんを叩いてしまったシーンが描かれていますね。
叩かれた瞬間の子どもの表情、何とも言えない顔を見てしまい、嫌悪感が自分の中で消化できないくらいでした。きれいごとにしたくないと思い描きましたが、読者からの反響も多かったです。もっと批判がくるかなと思っていましたが、そんなことはありませんでした。
怒るのは本当に嫌で、叱れないと思っていました。でも、子どもに何かしてあげても、恩を仇で返す的なことをされれば、普通に腹は立ちます。なので、子どもには何かしてあげたと思わないようにしています。
マンガにも描きましたが、そういう設定のゲームをしているのだと考えるようにしています。子どもは、こういうキャラのゲームだと。ゲーム感覚を常に持っていて、子どもが丸々残した料理を目の前に「手ごわいな」、こうきたかと思う。それくらいの余裕を持てるようにしていないと、気持ちがもたないです。
育児は、仕事でもないですし、遊びでもない。生活そのものですね。今、リセットがきかないゲームをやっていると思っています。
日本の育児環境
――このマンガには、フリーランス、高齢育児、ステップファミリー、発達障害、DV、面会交流、アトピー、いじめ等、今が抱える政治的な課題の多くが入っています。今の日本の育児環境はどうですか。
自分の周りの話題を拾っていったら、こうなった感じです。
社会全体は、子育てを促進する方向にはかなり来ていると思います。3人目は、保育料などお金がかからないようになっていてありがたいです。よくぞ産んでくださいましたという仕組みになっています。
子どもに関わる人の待遇がそれほどよくないのが気になります。とてもハードな仕事なのに、アルバイト募集を見ると、保育士補助とか安すぎます。マンガにも描きましたが、これはないだろうというのが僕の肌感覚です。
学校の先生の待遇も良くしないといけないと思います。労働環境も。僕が子どものころに比べて、先生がとにかく親切で、一人ひとりにケースバイケースで寄り添ってくれる。とてもがんばっていて、その割に待遇はあまりあがっていません。
――この点は、立憲も問題意識をもっていて法案「保育士・幼稚園教諭等処遇改善法案」を作って取り組んでいます。ケア労働はお母さんが家の中で無償で行うものの延長にあるから安くていいんだという背景があって、いやいや、とってもハードな仕事だと考えて党としても取り組んでいます。
――読者のみなさんへメッセージをお願いします。
このマンガを読んでいただければ、多少は「子どもを育てること」に気楽になれるかもしれないなと思います。子どもを育てるのも悪くないな、と思っていただければいいなと思います。より広く読まれたいと思い、新作『還暦子育て日記』を描き始めました。無料公開していますので、こちらもぜひ読んでください。