政策提言
コロナウイルス感染症対策における
障がい者の権利保障と障がいインクルーシブな対応
(この政策提言はアジア太平洋地域の障がい者と協議の上、作成しました)
UN ESCAP Social Development Division
国連アジア太平洋経済委員会 社会開発部
アジア太平洋には、約6.9億人の障がい者がいると推定されています。障がいを持つ人は、フルに社会参加しようとすると、必ず障壁に直面します。さらに性別、年齢、民族、収入、居住地などの要素と折り重なり、複合的な不利益に直面しているケースが多く見られます。
障がいをもつ人の多くは、貧しく、適切な社会保障を受けられない脆弱な雇用状態にあります。 国連アジア太平洋経済社会委員会(エスキャップ)の調査によると、障がい者の貧困率は障がいを持たない人より20.6%も高く、障がい者が雇用される可能性は、障がいを持たない人の2分の1から6分の1となっています。
ただでさえ不利な状況にある障がい者、とりわけ既存の健康障がいを抱えている人は、コロナウイルス感染症のパンデミックにおいて、より脆弱な状態におかれます。
たとえば、他人と一定の距離をあける、自主隔離をするなどの拡散防止措置も、障がい者には困難が伴います。身体障がい者は生理現象で介助者の助けを必要とし、精神障がい者は日々のニーズを満たすのに付添人の手助けを必要とします。さらに、障がい者の生活は、パンデミックが引き起こした景気後退のあおりで、深刻なリスクにさらされています。
コロナウイルスの感染拡大を契機に、各国政府は、パンデミック対策における障がい者のインクルージョンを主流化し、障がい者の権利と健康を保障する責任があります。
【提言】
1.新型コロナ対策に、障がいインクルージョンを徹底する。そのプロセスで、多様な障がい者と協議し、意見を聞ききちんと取り入れること。
コロナウイルス感染症の対策を講じる際に、公衆衛生、拡散防止措置、景気促進パッケージ、社会経済影響評価を含め、あらゆる局面で障がい者が排除されないように徹底する(障がいインクルージョン)べきです。
一口に障がいと言っても、その種類は多岐にわたり、特異性も多様です。障がい者の権利や尊厳が尊重され、多様な障がいの持つニーズに対応するために、政府は政策の起案から施行までの各プロセスにおいて、障がい当事者団体と協議する必要があります。
さらに、障がい当事者団体をサービス提供パートナーとすることで、専門知識を得ながら人手不足の軽減もできます。
2. 障がい者ならではの支援サービスを含め、必要な物資とサービスへのアクセスを継続的に提供すること
サプライチェーンが崩れ、必須アイテムが不足し、都市が封鎖された状態では、障がい者は、食料品、洗面用具、医薬品、手指消毒剤、衛生キット、防護マスクなどの日常必需品を入手するための人手や手段が絶たれる可能性があります。障がい者に必需品が継続的に届くことを保障するために、宅配オプションを含むメカニズムを設ける必要があります。
非常に大切なのは、呼吸器や酸素のタンクなどの医療機器が必要な障がい者のニーズが否定されず、これらの機器が全般的なコロナ対応のために不足しているので、撤収されるということがないようにしなければなりません。
各国政府は、健康管理、介助、リハビリなど、日頃から必要不可欠なサービスを継続して受けられるよう保障する必要があります。とりわけ、地域限定あるいは全国規模の外出禁止や自粛要請が出た時に、介助者や手話通訳者などが移動でき、現場で警察などに取り締まられることがないように許可証を発行するなどの対応が必要です。
また、介助者や通訳者が感染や隔離のため支援ができなくなった際に、障がい者が健康、コミュニティでの生活、自立および自己決定権を保つのに必要な支援を受けられることを保障するメカニズムが必要です。
公衆衛生上の問題で、学校やリハビリ施設の一時閉鎖などが余儀なくされる際に、混乱を最小化するために、オンライン学習へのアクセスなど(家族や介添え人を含む)合理的な配慮を提供するべきです。特に自閉症や精神障がいの人には、突然の変化による不安を和らげるのに、ホットラインやバーチャル・サポート・グループなどの支援メカニズムも役立つと思われます。
3.公的情報へのアクセスを可能にし、障がい者を含むすべての人々を尊重し、特定グループへの差別が助長されないよう配慮すること
障がい者、とりわけ既存の健康障がいを抱える人に、コロナウイルス感染防止を奨励するために、政府が流す情報は、障がい者がアクセスできるようにすることが求められます。具体的には、記者会見や公共サービスの告知における遠隔及び現場での手話通訳および要約筆記の提供、音声、点字、電子パブ、わかりやすい形式の資料の開発、アクセス可能なデジタル技術の使用、およびW3Cウエブ・アクセシビリティー標準への準拠などがあげられます。
コロナウイルス感染症に関するメッセージを発出する際に、障がい者を含むいかなるグループに対しても、差別や偏見を助長しないよう特別な配慮が必要です。
4. 治療・隔離などの医療施設を障がい者が利用できるようにし、関連の方針・手順などの情報をバリアフリー化すること
検査・隔離センターを含む医療施設が障がい者に利用可能で、必要に応じて医療支援を受けられるように保障することが重要です。医療提供者は、必要に応じて手話通訳を提供できるようにしておく必要があります。具体的には、電話リレーサービス、スマートフォンのアプリやビデオ技術を利用した遠隔手話などがあります。必要な場合、政府は隔離施設において、障がい者のニーズに応えるために訓練を受けた介助者を配置するべきです。どのプロセスにおいても、医療専門家は障がい者を尊重し、差別のない態度で臨まなければなりません。
5. 障がい者の所得と生計を保障すること
障がい者、とりわけ既存の健康障がいのある人が、感染リスクを減らすために社会的接触を減らしながら働き続ける場合、政府は事業主に、柔軟な勤務形態や有給休暇などの合理的な配置を奨励するべきです。障がいのある従業員が在宅勤務(テレワーク)を行う場合、事業主のデジタルインフラ、関連ツールや資料に従業員がアクセスできるようにし、障壁なく仕事をこなせるようにする必要があります
政府はまた、差別禁止法および労働法の厳格化を検討し、コロナ対策期間中に不公平・差別的な解雇が行われないように、法律の摘要を強化する必要があります。
各国政府は、障がい給付金が滞りなく給付されるように保障するべきです。さらに、公共サービスの中断により、宅配サービスの利用や臨時の介助人雇用など、生活費がかさんでいる場合は、必要に応じて経済的支援の追加を検討するべきです。
- 6. 施設に暮らす障がい者の権利と幸福、健康な状態を守る
精神病院や拘置所、刑務所、居住施設などに暮らす障がい者は、高い感染リスクにさらされ、緊急事態宣言の発動などで外部からの監視が低下するうえに、構造的な差別があるため、特に弱い立場に置かれます。
政府は、迅速な法的措置や監察をおこない、虐待やネグレクト(違法な隔離)を防止しなければいけません。同時に、適切なソーシャル・ディスタンスを維持し、衛生状態をよくするようにしなければなりません。また、新型コロナに関する公的な性質の情報が、これらの施設に住んでいる障がい者にきちんと伝わるようにしなければなりません。
とても大切なのは、違法で不要な障がい者の施設収容を行わないことです。また、地域支援団体とも協力して、ホームレスの精神障がい者を支援する必要もあります。
以上